Yusei Miyazaki
多発性硬化症・視神経脊髄炎・MOG抗体関連疾患専門家


Yusei Miyazaki
多発性硬化症・視神経脊髄炎・MOG抗体関連疾患専門家


視神経脊髄炎スペクトラム障害


NMOSDと診断を受けたら

 NMOSDに限らず病気の診断を受けたら仕事のこと、家族のこと、将来のことなど様々な不安が生じると察します。その中の一つに医療費の不安があるのではないかと思います。NMOSDは難病に指定されていますので、認定を受けると医療費負担が軽減されますが手続きがやや複雑です。こちらの動画ではNMOSDと診断された際に医療費負担を軽減する流れを解説しています。少しでも不安を緩和し、安心して速やかに治療が受けられることを願います。

AQP4抗体陽性NMOSDの治療

 2004年にNMOSD患者さんの血中に抗アクアポリン(AQP)4抗体が検出されることが発見され、NMOSDの病態理解は急速に進歩しました。特に2019年に1つ目の生物学的製剤であるソリリスが登場して以降,その治療法の進歩は目覚ましく、現在ではAQP4抗体陽性NMOSD患者さんに5種類の生物学的製剤が使用可能となりました。これら生物学的製剤はいずれも非常に高い再発抑制効果と妥当な安全性が臨床試験で示されています。

 しかし、あまりにも急激に治療が進歩したために、我々医師も混乱に陥っているのが現状です。治療の選択肢が多くなりすぎて決断が困難になってしまいました。そこで2023年に発行されたMS・NMOSD診療ガイドラインが参考になります(こちらの動画もご覧ください)。

 このガイドラインではまずNMOSD治療の目標として再発を起こさないことステロイドは減量・可能な限り中止することの2点を設定しています。その上で、この目標を達成する手段として経口免疫抑制薬と生物学的製剤の2つの選択肢を提示しています。注目すべきは、診断時から生物学的製剤を選択可能であることと、従来は治療の主役であった経口ステロイド剤を免疫抑制薬の補助的位置付けとして少量に留めるよう記載されていることです。なお、このアルゴリズムは初発、または再発直後に適用されます。しばらく再発がなく経過している患者さんの治療に関しては後述します。

 上記アルゴリズムに従うと、まず経口免疫抑制薬と生物学的製剤のいずれを選択すべきか考えることになりますが、この問題は専門家の間でも意見が一致していません。以下に私の考えを記します。

 まず大切なキーワードは高い治療目標です。上述のごとく、NMOSD診療ガイドライン2023では治療目標として再発を起こさないこと、ステロイドは減量・可能な限り中止するという2点を挙げています。私は生物学的製剤をうまく使いこなすことで、もう少し高い目標を立てることを勧めています。具体的には再発ゼロは当然のことながら、ステロイドもゼロ、そして生活の質を最大化することを目標に定めて治療を考えています。

 2つ目のキーワードとして過剰治療を挙げます。それはNMOSDの特徴を考えるとはっきりしています。多くの慢性疾患では、治療が順調かどうかを評価する方法があります。例えば、高血圧の治療では血圧を測定して目標値に達していれば治療がうまくいっていると考えます。しかし、NMOSDにはそのような治療効果を測定する指標がありません。再発が起きてしまってから治療が上手くいっていなかったことが分かりますが、それでは手遅れなのです。つまり、再発をゼロにするためには可能な限り強力な治療、すなわち過剰治療をする必要があります。

 以上2つのキーワード高い治療目標、過剰治療を考え、私は以下の方針でNMOSD患者さんの治療を行っています。NMOSDの初発、再発の際には全ての患者さんについて生物学的製剤で治療できないか検討します。その過程で医学的に5つの生物学的製剤のいずれも合わない患者さんや,注射薬を望まない患者さんを抜き出して免疫抑制剤で治療するようにしています。

 もちろん生物学的製剤にも副作用の懸念があり、一部の患者さんには生物学的製剤は不向きです。しかし、私は5つの薬剤それぞれの特徴を理解することで、多くの患者さんが最低でもどれか一つは比較的安全に使用することができると考えています。従って、全ての治療法を選択肢に入れて検討することが大切で、5つの生物学的製剤全てが使用可能で経験豊富な医療機関において治療選択することを強く勧めます(こちらの動画もご覧ください、なお、2024年6月以降多くの病院で入院中にも生物学的製剤が使用可能となりました)。

 ところで、生物学的製剤の薬価が高いことを心配する患者さんや医師がいらっしゃいますが、NMOSDの治療は薬価ではなく、有効性と安全性で決めることを勧めます(もちろん患者さんの個人医療費負担の軽減策を施した上で)。私も一国民として国民医療費の高騰には憂慮します。同じ効果が望めるのであれば薬価の安い薬剤を選択することは妥当だと思います。しかし、NMOSDの従来治療(ステロイドや免疫抑制薬)と生物学的製剤は有効性、安全性ともあまりにも違うためにその価値を単純に比較することができません。今後は費用効果比の研究が行われ、適切な薬価が決まることを期待します。それまで患者さんは薬価は気にせずに、ご自分に適切と思われる治療を主治医と相談して決めていいと思います。

しばらく再発がない場合の考え方

 上述のごとく、私は初発や再発直後のAQP4抗体陽性NMOSD患者さんには生物学的製剤を勧めていますが、従来治療(免疫抑制剤、プレドニン5 mg以下など少量のステロイド)でしばらく再発がなく経過している患者さんの場合には基本的にその変更は勧めていません。

 ただし、視点を変えて治療について考えてみることを勧めます。再発がないのでその治療は有効であると判断できますが、今度は副作用の方に目を向けてみてください。NMOSDは生涯にわたって再発予防治療を続ける必要があります。日本人の平均寿命を考えると、多くの方は数十年にわたってその治療を続けることになります。

 ステロイドはNMOSDの再発を強力に抑える有効な治療ではありますが、長期的に服用すると様々な副作用が生じる可能性があります。これら副作用の多くは短期的には痛くも痒くもありませんが、気が付いた時には骨折や脳梗塞、心筋梗塞など重篤な事態につながることがあります。

 NMOSDガイドライン2023に示されているように、現在ではステロイドは経口免疫抑制薬の補助として少量のみ使用することが推奨され、可能な限り中止することとされています。たとえ少量(プレドニン5 mg以下)であっても、免疫抑制剤を併用してステロイドを可能な限り減量・中止すること、または生物学的製剤に変更することも一度は考えてみてください。

AQP4抗体陰性NMOSDの治療

 AQP4抗体NMOSD患者さんの再発予防治療もNMOSDガイドライン2023に従って、免疫抑制剤を併用の上で可能な限りステロイドは減量することを勧めます。

 現時点ではAQP4抗体陰性のNMOSD患者さんに対して上記5つの生物学的製剤は使用できません。しかし、AQP4抗体陰性NMOSDの治療は発展途上であり、今後新しい治療が出現してくることが強く予想されます。このことはMOG抗体関連疾患の歴史を見ているとよく分かります。

まず、MS患者さんの中で病変が視神経と脊髄に限局する一部の患者さんがNMOSDとして分離されるようになりました。

NMOSDの中にはAQP4抗体陽性の方と陰性の方がいます。陰性の方の一部にMOG抗体が検出される方がいると分かり、MOG抗体関連疾患(MOGAD)が分離独立されました。MOGADは現在新規治療薬の研究が進んでいます。

MOGADと同じように、今後も新しい抗体が発見されるたびに〇〇抗体関連疾患が次から次と分離されて,将来的にはAQP4抗体陰性NMOSDは全てはっきりとした病名で呼ばれるようになることが期待されます。MOGADのように原因抗体がわかれば新規治療薬はいずれ登場します。

感染症に関する注意(B型肝炎、帯状疱疹、新型コロナウイルス感染症)

 NMOSD治療薬のほとんどは免疫機能を抑制するために感染症に対して防御能が低下してしまいます。そのリスクの程度や注意すべき感染症は薬剤ごとに異なりますので主治医にご確認ください。動画でB型肝炎帯状疱疹新型コロナウイルスワクチンについて解説しています。*新型コロナウイルスに関する動画は2021年7月時点での内容です。

定期検査について

 NMOSD患者さんが定期的に検査を受ける目的は治療薬の副作用が出ていないかチェックするためです。薬剤ごとに副作用の種類が異なりますので、患者さんごとに受ける検査は異なります。基本的にはほぼ全ての患者さんで血液検査は2〜6ヶ月ごとに行います。加えて、ステロイド治療を受けている患者さんは、様々な副作用の可能性があるために眼科受診(白内障・緑内障のチェック)、骨塩定量(骨粗鬆症の有無・程度の評価)などの定期検査を受けることを勧めます。

 なお、私は再発のないNMOSD患者さんに定期的に脳や脊髄のMRI検査を行っていません。再発がない方にMRIを行っても新しく病変が見られる可能性は低く、検査を行う意義が乏しいからです(こちらの動画もご覧ください)。

 

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