近年スマートフォンや体に装着可能なセンサー(ウェアラブルセンサー)の普及に伴って、これらデジタルツールから得られるデータを疾患の治療や健康管理に利用することが研究され、一部は実用化されています。私はこのようなデジタルツールを用いてMS患者さんの症状を評価する方法を研究しています。特に、今後オンライン診療が普及するに従って患者さんが病院に来る頻度が減ることが予想され、その間に自動的に症状を評価したり、患者さんがご自身のスマートフォンで症状をチェックできるツールの開発を目指しています。また、このような技術はどこでも利用可能で、MSを専門としない医療機関でも専門病院と同様の検査を受けることができる点もメリットです。
以下の検査は研究として行っており、検査を受けていただく前に同意書にサインをいただいています。
スマートフォン・アプリ(MS-up)
MS患者さんがご自身で症状を評価することを目的に私が開発しているスマートフォンアプリです。現在は来院時に我々が用意したスマホで検査を行っていますが,将来的には患者さんのスマホにアプリをインストールしていただくことを目指しています。2023年度に少数の患者さんと健康な方に検査を受けていただき、問題点を洗い出した後にバージョン2を作成し、現在では当院に通院中のなるべく多くの患者さんに検査を受けていただいています。以下の意味を込めてアプリの名前はMS-up(エムエス・アップ)としています。
MS患者さんをup(元気に)させるアプリ
患者さんに最近,どう?(What’s up)と問いかけるアプリ
アプリケーションの英語略(app、アップ)とup(アップ)をかけた
MS-upは以下の3つの検査から構成されており、検査終了後に簡易的な検査結果をお伝えします。
9ホール・ペグ・テスト
画面上の丸を親指と人差し指で摘んで移動させる時間を計測します。
2本指タッピング
10秒間で人差し指と中指で画面をタッピングした回数を計測します。
歩行とバランス
スマホを腰に装着したポショットに入れて、20歩往復歩きます。検査の間に加速度計を用いて歩行のバランスを計測します。
腕時計型センサーを用いた睡眠評価
MS患者さんは約半数の方に何らかの睡眠に関連した問題を抱えていると報告されています。睡眠障害は不快であるばかりではなく、免疫系の異常活性化を介してMSの増悪に関与している可能性が動物実験等で示唆されています。そこで、腕時計型センサーを用いてMS患者さんの睡眠を評価し、脳萎縮や免疫系の異常との関係を研究しています。ご興味のある方はこちらの動画をご覧ください。現在は研究を開始したばかりで、対象の患者さんを限定しています。