一部のMS患者さんには高次脳機能障害が出現してしまいます。MS患者さんの高次脳機能障害は、高齢の方にみられるいわゆる老年期認知症とは症状が異なるために、その評価にも専用の検査が必要です。
老年期認知症(その多くはアルツハイマー病)では記憶が最も頻繁に障害されるために、まずは記憶検査を行うことが一般的です。しかし、MS患者さんでは情報処理スピード、注意・集中、言語の流暢性、空間認知、近時記憶、理論的推論など複数の領域が患者さんごとに様々なパターンで障害されうるために、1つの検査で全てを網羅することが困難です。そこで、複数の検査を組み合わせた複合検査がいくつか開発されています。その中で北海道医療センターではBICAMS(バイカムス、Brief International Cognitive Assessment for MS)という検査を約1年に1度行っています。
BICAMSはMS患者さんの高次脳機能を比較的短時間(約15分)で検査することを目的に海外で開発された検査で、その日本語版は北海道医療センターの新野正明先生が作成・検証を行っています。BICAMSは情報処理スピード、言語性記憶、視空間記憶を調べる3つの検査から構成されています。
多くの方が高次脳機能検査を受けることに抵抗を感じると察します。しかし、高次脳機能検査はMSによる中枢神経の病態を高感度に検出する非常に重要な検査です。私はMRIと同程度に高次脳機能検査の結果を重要視しており、治療法を決定する際に参考にしています(こちらのデジタル版SDMTに関する動画もご覧ください)。
以下の検査は研究として行っており、検査を受けていただく前に同意書にサインをいただいています。
情報処理スピード(Symbol Digit Modalities Test, SDMT)
記号と数字の組み合わせを90秒でいくつ答えられるか検査します。
言語性記憶(California Verval Learning Test 2nd edition, CVLT2)
左にある単語リストをいくつ覚えているか検査します。
視空間記憶(Brief Visuospatial Memory Test Revised, BVMTR)
6つの絵柄を記憶し,同じ図形をいくつ描けるか検査します。