MOG抗体関連疾患(MOG antibody-associated disease, MOGAD)は最近認識されるようになった疾患であり、その治療法はまだ確立されていません。MOGADは小児から成人まで発症しうるのですが、小児と成人では出現する症状や経過が異なります。私は主に成人の神経疾患患者さんの診療を行っていますので、このサイトでは成人のMOGADの治療について私見を述べます。
MOGADは初発の1回限りで済む場合と再発を繰り返す場合があります。報告により多少の幅がありますが、3~5割の患者さんが再発性の経過をとります。1回限りで済む患者さんの場合には再発予防治療は必要がないのですが、どの患者さんがその後再発をするかを予測することは極めて困難です。いくつかの研究で、以下の特徴のある患者さんは再発しやすいと報告されていますが、やはり将来を正確に予測することはできません。
- 発症年齢が40歳以下
- 視神経炎での発症
- 発症時に脳の障害を含めた複数の症状がある
- 髄液中の細胞数やタンパク質濃度が高い
初発の患者さんの治療
上述の如く、初発の患者さんはその後に再発するかどうか分かりません。そこで、2023年に発表された本邦の多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドラインでは、根拠は非常に弱いながらMOGADに対して再発予防治療を推奨しています。ただし、再発しない場合には経過を注意深く観察し、治療の漸減、中止を検討するとも記載されています。私もこの考え方に賛成です。MOGADは再発してしまうと後遺症を残してしまう可能性があります。従って、再発するかどうかは分からなくても、まずは全員再発予防治療を開始して可能な限り再発の危険を低くするべきです。ただし、再発がなく一定期間を過ぎたら治療を見直して、治療の中止を検討する方針をとっています。この際には血中のMOG抗体を参考に治療の中止を判断しています。具体的には6ヶ月ごとにMOG抗体を検査して、陰性となったら再発予防治療を少しずつ減量して中止を目指して行きます。再発予防に使用する薬剤は以下の再発した患者さんの項をご覧ください。
再発を起こしたことのある患者さんの治療
一度再発を起こした患者さんはその後も再発を起こす可能性があり、基本的には再発予防治療を勧めます。現在本邦ではMOGADに対して承認された治療薬はありませんが、基本的にはステロイド(プレドニンなど)と免疫抑制薬(イムラン/アザニン、セルセプトなど)を併用して治療開始します。免疫抑制薬は決まった量を継続しますが、プレドニンは1日20 mg程度で開始し、3〜6ヶ月で10 mgに減量します。その後は数年かけて少しずつプレドニンを減量して、中止を目指します。
この治療にも再発を起こしてしまった場合やステロイド・免疫抑制薬が副作用等で使用できない場合には以下の治療を行うこともあります。ただし、いずれもMOGADに対して保険適応はなく、使用に当たっては費用や副作用が出た際の補償などに関して十分検討しておく必要があります。
- 免疫グロブリン大量点滴療法
- B細胞除去療法(リツキサン、ケシンプタなど)
さらに、現在MOGADの再発予防に関する以下の薬剤の治験が行われています。いずれも既に他の疾患で承認を受けている薬剤ですので、その安全性はある程度把握できているという点でとても期待しています。早く良い結果が出て承認される日が来ることを願っています。
- エンスプリング(視神経スペクトラム障害の治療薬として承認済み)
- リスティーゴ(重症筋無力症の治療薬として承認済み)
- アクテムラ(関節リウマチの治療薬として承認済み)
いつまで治療を続けるのか?
再発予防治療を行っているといつまで治療を行うべきなのか?と疑問に思うことが多いと思います。初発の患者さんの場合には上述の如く治療を中止できる可能性がありますが、再発を起こしてしまった患者さんの場合には明確な基準はありません。MOGADはまだ新しい疾患なので長期的に経過が分からないからです。
そこで、このように考えてはいかがでしょうか?MOGADは再発をしてしまうと重度の後遺症を残してしまう可能性のある疾患ですので、基本的には再発を起こさないことが最重要目標です。MOGADの研究はこれから進歩し、近いうちに治療を中止する目安も明らかになるはずです。その時まで再発を起こさず健康な状態を保つために、しばらくは再発抑制治療を行いましょう。治療の副作用が強く、続けることが辛い場合には上記に挙げた他の選択肢もありますので、主治医とご相談ください。