Yusei Miyazaki
多発性硬化症・視神経脊髄炎・MOG抗体関連疾患専門家


Yusei Miyazaki
多発性硬化症・視神経脊髄炎・MOG抗体関連疾患専門家


NMOSD患者さんの生活の質(QOL)

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NMOSDは視力の低下や麻痺、痛みなど、生活に大きな影響を与える症状が特徴ですが、その症状は患者さんによってさまざまです。

NMOSDの治療は進んできました。2019年からは、生物学的製剤が登場し、現在ではいくつかの選択肢があります。しかし、どの薬が誰に最適なのかという問題に対しては、まだ完全に答えが出ていません。医師が「この薬が良いだろう」と考えても、患者さん自身は「これまでの薬の方が良いかも」と感じることが少なくないのです。このような状況から、医師と患者さんの間で十分なコミュニケーションを取り、患者さんの本当のニーズを正確に理解することが非常に重要になってきます。

EDSSの限界

NMOSDの症状を評価するための基準として「EDSS」という尺度があります。これは、もともと多発性硬化症(MS)の患者さんの身体機能を0から10までのスコアで評価するもので、スコアが高いほど症状が重いことを示します。しかし、EDSSは主にMS患者さんの症状を評価することに焦点を当てた評価基準であり、NMOSD特有の症状、たとえば視力の低下や強い痛みなどには十分対応できていないのです。そのため、NMOSDの患者さんの中には、深刻な症状を抱えているにもかかわらず、EDSSでは軽度と評価されてしまい、難病認定などの支援が受けられないケースもあります。

例えば、片目の視力を失ったり、体の一部に強いしびれや痛みがあったりする患者さんが、外見上は健康に見えることもあります。しかし、日常生活に大きな支障をきたしていることは間違いありません。こういった症状はEDSSでは十分に反映されないため、NMOSDの患者さんが感じる「本当の困りごと」が見過ごされる可能性があります。

QOL(生活の質)の重要性

ここで、医療従事者が注目しているのが「Quality of Life (QOL)」、つまり生活の質です。QOLとは、日々の生活でどれだけ快適に過ごせているか、どれだけ自分らしい生活が送れているかを指す指標です。病気の症状だけでなく、その症状が患者さんの生活にどのように影響しているかを評価することが目的です。

QOLは、医療の中で「健康関連QOL」という形でよく取り扱われます。これは、健康状態に影響を受け、医療によって改善できる生活の質のことです。QOLの評価は、主にアンケート形式で行われ、NMOSDの患者さんのような特定の病気に対するものや、一般的な病気の影響を評価するものがあります。

NMOSDに特化したQOLの評価尺度がない現状

NMOSD患者さんのQOLを正確に評価するためには、その病気特有の困りごとに焦点を当てた評価尺度が必要です。しかし、現時点ではNMOSD専用のQOL評価尺度は存在していません。代わりに、MSの患者さん向けに作られたQOL尺度や、どんな病気にも使える包括的な尺度が使用されています。しかし、それではNMOSD患者さん特有の症状や困りごとが十分に評価されていないのが現状です。

そこで、私たちはNMOSD患者さん専用のQOL評価尺度を作るための研究を始めました。まず、患者さんや医療従事者へのインタビューを通じて、どんな症状や困りごとがあるのかを詳しく把握し、それを基に質問項目を作成します。これから、NMOSD患者さんの生活の質をより正確に評価できるアンケートを作成し、それが有用かどうかを確認するための検証を行います。

皆さんの協力が必要です

NMOSDの治療や患者さんの生活の質を向上させるためには、皆さんの協力が欠かせません。この新しいアンケートが、NMOSD患者さんの困りごとを正確に反映し、治療の質を高めるための手助けになることを目指しています。もし、医療機関からこのアンケートに協力してほしいとお願いされたら、ぜひご協力いただけると幸いです。

もちろん、アンケートに協力することが難しい方もいらっしゃるかと思います。その場合は無理をする必要はありません。他にもさまざまな方法で患者さんの困りごとを把握し、支援できるよう、引き続き努力していきます。


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