Yusei Miyazaki
多発性硬化症・視神経脊髄炎・MOG抗体関連疾患専門家


Yusei Miyazaki
多発性硬化症・視神経脊髄炎・MOG抗体関連疾患専門家


NMOSD/MOGADのレジストリ研究(ドイツのNEMOS、日本のJANIMA)

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 どんな病気もその症状や経過に個人差がありますので、研究を行うためには多くの患者さんを対象とする必要があります。少数例のみの解析では病気の全貌が見えないからです。また、新薬の効果を調べる治験にも多くの患者さんに参加いただく必要があります。しかし、NMOSD、MOGADとも希少疾患であるために、多くの患者さんに研究に参加してもらうことは容易ではありません。

 このような希少疾患の研究を行う一つの方法にレジストリ研究というものがあります。レジストリ(registry) とは登録、登記、登録所、登録簿などの意味を持つ英単語で、医学の分野では特定の疾患の医療情報や検体の収集を目的として構築されたデータベースと定義されています。一般的には複数の医療機関が参加して特定の疾患の症状、検査結果、治療への反応性や副作用などの情報、血液などの検体を複数年に渡り収集します。

 レジストリ研究の利点として、複数の医療機関が参加することで一つの機関では十分な数の患者さんの情報が得られないような希少疾患の研究に有用なことが挙げられます。また、血液や髄液などの検体を収集保存しておくことで、これらを使った新しい研究の開始がスムーズになります。研究を開始してから検体を収集していたのでは莫大な時間がかかってしまうからです。さらに、新規治療薬の治験が開始されるときなどに、登録している患者さんに連絡を取って参加を募ることで、効率的に治験の実施が可能となるなどのメリットがあります。

 MSの国際的レジストリにMSBase(エムエスベース)というものがあります。世界43ヶ国、186の医療機関が参加し、執筆時点では108,684人のMS患者さんの情報が登録されているそうです1)。MSBaseのデータを用いた研究はMS診療の発展に大きく貢献しており、我が国のMS、NMOSD診療ガイドライン2023もその影響を受けて作成されています。

 海外の代表的なNMOSD、MOGADのレジストリ研究を主導しているNEMOS(ニモス)という研究グループがあります。NEMOSはNEuroMyelitis Optica Study Groupの頭文字をとったもので、2008年にベルリンで創設され、現在ではドイツ内60以上の医療機関が参加しています2)。NEMOSはNMOSD、MOGADのレジストリ研究の重要性にいち早く目をつけて、これら疾患の臨床情報、画像検査結果、血液検体を収集し、これまで多くの重要な研究結果を発表してきました。

 最近NEMOSはNMOSDの診断や治療に関する推奨を発表しています3)。ここではこの推奨の中のNMOSDの再発予防に関するパートをご紹介します。ご覧いただくにあたって、ドイツと日本は医療情勢が異なるために直ちに日本の患者さんに応用できない部分があることをご了承ください。

 この推奨ではAQP4抗体陽性NMOSDの患者さんは初発の後に可及的速やかに再発予防治療を開始することとされ、その第一選択は生物学的製剤(ソリリス、ユルトミリス、ユプリズナ、リツキサン、エンスプリング、順不同)となっています。第二選択としてイムラン/アザニン、セルセプト、アクテムラ(順不同、いずれも本邦ではNMOSDに保険適応なし)が記載されています。ステロイドはここでは選択肢に入っていません。その上で再発を起こしてしまった際には作用機序の異なる生物学的製剤への切り替えが推奨され、それでも再発を起こしてしまった場合には生物学的製剤にイムラン/アザニン、セルセプトまたは少量のステロイドを併用することが推奨されています。

 このような生物学的製剤を中心とした積極的なNMOSDの治療方針は、ドイツの先生方が長年にわたってNMOSD患者さんのデータを集めて研究を行ってきた結果から導き出されたものであり、科学と経験に基づいた治療方針と言えます。私はこの治療方針に大いに賛成します。なお、この治療方針は初発、または再発直後の患者さんに適用されます。既に他の治療で再発なく経過している方は無理にこの方針に変更する必要はありません。

 本邦でも2023年12月にNMOSD/MOGADのレジストリ研究が立ち上がりました。日本神経免疫学会の主導で神経免疫疾患レジストリ(JANIMA, Japan Neuro-Immunology Association,ジャニマ)という事業がNMOSD/MOGADと慢性炎症性脱髄性多発神経炎の2つのレジストリ研究を遂行しています4)。NMOSD/MOGADのレジストリは現在国内8つの医療機関が参加しており、北海道では私の所属する北海道医療センターが患者さんの登録を行っています。

 これまでNMOSD/MOAGの研究には本邦の研究者が多大な貢献をしてきました。これからもJANIMAの研究を通じて世界中のNMOSD/MOGAD患者さんに有益な情報や新規治療薬が届けられることを期待しています。そのためにはより多くの患者さんに参加していただく必要があります。研究への参加を依頼された際には、無理のない範囲で結構ですのでご協力お願いいたします。

引用
1) MSBase Neuro-Immunology Registry. https://www.msbase.org 2024年6月4日閲覧.
2) NEMOS – Neuromyelitis optica Studiengruppe. https://nemos-net.de 2024年月4日閲覧.
3) Kümpfel T, et al. Update on the diagnosis and treatment of neuromyelitis optica spectrum disorders (NMOSD) – revised recommendations of the Neuromyelitis Optica Study Group (NEMOS). Part II: Attack therapy and long-term management. J Neurol 2024.
4) JANIMA 神経免疫疾患レジストリ.https://www.janima.org 2024年6月4日閲覧.


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