MSの治療は過去20年間で非常に進歩し,現在本邦では8種類の薬剤が使用可能となりました.しかし,最新の情報を元にこれら薬剤を適切に使いこなすことが難しくなったことも事実です.私は距離の問題で当院に通院が困難なMS患者さんに,オンライン診療を提供しています.しかし,私のキャパシティの問題で,オンライン診療を用いても広大な北海道に住んでいるすべての患者さんに専門医療を届けることはできません.そこで,各地域のMSの診療をサポートする目的で,D to P with Dと呼ばれるオンライン診療の実証実験を行い,論文発表しました.
医師がオンラインで直接患者さんと診療を行う形式をDoctor to Patient (D to P)と呼びます.一方で,遠隔にいる主治医と患者さんに対してオンラインで診断や治療に対してアドバイスする診療形式をDoctor to Patient with Doctor (D to P with D)と呼びます.
本研究では当院と北海道内4つの医療機関をオンラインで繋ぎ,これら医療機関に通院中のMSの方とその主治医の先生に対してオンラインでアドバイスを行いました.2023年5月から12月の研究期間で11人の患者さんと4人の主治医の先生に参加いただきました.オンライン診療の後に患者さん,主治医の先生にアンケートに回答していただきました.
アンケートの結果,患者さんも主治医の先生もD to P with D形式のオンライン診療に概ね満足されていました.特に遠方の当院まで通院することと比較すると負担が軽減されることが高く評価されました.加えて,多くの患者さんが主治医の先生に対する信頼度が向上したと回答されました.主治医の先生もMS診療の知識が向上したと回答されていましたが,一方で時間を確保する難しさを指摘する御意見もありました.
本研究の結果から,D to P with D形式のオンライン診療は北海道のような広大な地域において,専門医療機関を受診する患者さんの通院負担を軽減でき,患者さんと主治医の先生の信頼関係を向上させつつ専門的医療を提供することで,独立した地域医療をサポートするツールとして有用であると考えました.今後は主治医の先生の負担を軽減しつつ持続可能なシステムへと改良を加えたいと思っています.